2013年4月30日火曜日

「御領内(水戸領)産物留」の鳥


 
  1700年代、享保20年ころ、幕府の役人で本草学者の丹羽正白は、日本全部の動物、植物、鉱物などの調査を各藩に行わせ、「産物帳」という書物にまとめた。残念ながら、幕府にあった原本は失われたが、各藩の控えが残っていて、当時の自然環境を知る手がかりとなっている。水戸藩においては、「御領(水戸領)内産物留」(1736年 国立国会図書館・白井文庫蔵)と題される写本が残っている。

 この調査は、日本全国を対象として実施されたはじめての自然調査というべきものであった。水戸藩内においても、藩内の知識人を刺激し、木内玄節(17681833)の「常陸物産誌」24巻や佐藤中陵(17621848)の「山海庶品」1000巻の作成に影響を与えた。


ここでは「御領内(水戸領)産物留」の鳥類の部に記された品目名と書入れを紹介する。

 
一鳥類

鴈 マタラ 真カン ヒシクヒ 犬カン  鴨 マカモ 羽白 ヲシカモ カル 小カモ ス丶カモ

   ハクカン サカツラ               タカブ クロカモ カシラタカ ヲナカ

靏 ナヘツル 真ツル 白ツル ナヘツル平生ハ渡り不申候 十月比ヨリ来三月四月比迄

                   居り申候江辺ニテハ朝鮮ツルト申候小フリニて黒ツルニ御座候

 真ツルコレハ平生居申候テ大フリナル鳥ニテ目ノ辺アカク御座候 白ツルコレモ折々ワタ
 リ申候

コウノ鳥     白鳥         鳩 土ハト八幡ハト      ス丶メ 

四十カラ     五十カラ     マヒハ               庭鳥

           ツバメ       クイナ               ケリ

ウツラ       ヒハリ       木ツツキ又テラツキ    フクロウ

トビ         カラス       ヒヨ鳥               ヨシキリ

サンクワウ   青ジ         ミソサンサイ           ムク鳥又サウメキ

川鼡カイツフリトモキンキチトモ鳩ト云ハ  シギ            バン

比ノ鳥ノヨシ

ミ丶ツク     トキ         モズ                 セキレイ

テウマ       メシロ       ウカラス             田ヒバリ

キクイタ丶キ カシラタカ   サキ青サキ タイサキ 五位サキ 白サキ

シヤウビン又川セミ ヲ長鳥  カケス                カハラヒハ

コカラ       チトリ       水ク丶リ             キシ

ホ丶ジロ     カツコウ鳥   ウソ                 ハイタカ

山シキ       ルリ         コマトリ             レンジヤク

シメ         ヒタキ       シナイ               ミナクチ

ツクミ       キセキレイ   アヒル               ヌカ

ハヤフサ     ヨタカ       ムネクロ             ワシ

カハホリ     川ス丶メ     エホ                 山トリ

松ムシ       マシコ       イスカ               イカル

黒ツグ       ノジコ       ホトトキス           スボロ

アトリ       ミヤマス丶メ 山カラ               ボト

虫バミ       鍋カフリ    

一海鳥

マトリ       クロ鳥       コマ鳥               カコ鳥

ミサゴ       コチタ       チドリ

 
  以上は「御領内(水戸領)産物留」の鳥類の部の本文であるが、同時に作成されたであろう絵図は発見されていないので、品目名の鳥が、現代の標準和名でどの種であるのか、方言の問題もあり、推察は困難な種もある。現在の鳥の生息状況などから、あえて推定すると以下のようになる。


一鳥類

鴈 ( ? )  マガン ヒシクイ シジュウカラガン  鴨 マガモ ( ? )  ヨシガモ カルガモ コガモ ( ? )    

   ハクガン サカツラガン                        コガモ ( ? )  ( ? ) オナガガモ

靏マナヅル タンチョウ ソデグロヅル マナヅルは、普通は渡ってこない。10月頃から来て34月頃までいる。江戸では朝鮮ツルと言う。小さくてクロツルに見える。

    タンチョウは、普通にいて大きい鳥で目の辺りが赤く見える。ソデグロヅルもときどき渡ってくる。

コウノトリ   ハクチョウ   ハト ドバト ジュズカケバトあるいはシラコバト      スズメ 

シジュウカラ     ゴジュウカラ     マヒワ              ニワトリ

ウグイス           ツバメ       クイナ類               ケリ

ウズラ       ヒバリ       キツツキ類    フクロウ

トビ         カラス類       ヒヨドリ               ヨシキリ類

サンコウチョウ   アオジ         ミソサザイ           ムクドリ

カイツブリ      シギ科の鳥の総称            バン

ミミズク類     トキ         モズ                 セキレイ類

ツグミ       メジロ       ヒメウ             タヒバリ

キクイタダキ カシラダカ   サギ類

カワセミ    オナガ  カケス カワラヒワ

コガラ       チドリ類       ミソサザイ         キジ

ホオジロ     カツコウ     ウソ                 ハイタカ

ヤマシギ     オオルリとコルリ         コマドリ  ヒレンジャクとキレンジャク

シメ         ヒタキ類      アカハラ              ミゾゴイ

ツグミ       キセキレイ   アヒル              ベニヒワ

ハヤブサ     ヨタカ       ( ? )                  ワシ類

( ? )     ( ? )     サンカノゴイ         ヤマドリ

ヤマヒバリあるいはキクイタダキ  マシコ類       イスカ               イカル

( ? )     ノジコ       ホトトギス          ( ? )       

アトリ       ( ? )     ヤマガラ             ( ? )    

( ? )     ( ? )     タカ類

一海鳥

ウ類         クロガモビとロートセキンクロ       ( ? )             ( ? )    

ミサゴ       ( ? )            チドリ類

2013年4月21日日曜日

千波湖の飼い鳥(コクチョウやコブハクチョウについて)


卵を抱くコブハクチョウ(4月19日  千波湖)


卵を抱くコクチョウ(4月19日  千波湖)

 
  4月19日、千波湖に行って、野鳥を観察しました。ここでは、冬にカモなどの野鳥が多くみられます。今回は、ここで飼われているコクチョウやコブハクチョウの数を、周回道路を歩きながら、数えてみました。

千波湖にいるコクチョウやコブハクチョウは、元々は人の手によって連れてこられましたが、その後増えつつあり、現在では周辺の湖沼などに住み処を広げて野生化している個体もいます。

コブハクチョウ27

コクチョウ76(この内幼鳥6)

2013年4月18日木曜日

水戸市森林公園


2013年4月14日  水戸市森林公園(山桜)
 
 
   4月14日、水戸市森林公園に行ってきました。今年も、山桜がきれいでした。
ここら辺から、謡曲「桜川」で有名な岩瀬にかけては、山桜が特にきれいな場所と思います。この謡曲が作られた頃の昔の人も、茨城県内のこの辺を桜のきれいなところと解っていたのでしょう。 
418日、水戸市森林公園の近くをドライブしていると、夏の鳥のサシバが2羽飛んでいました。この辺の谷津田には、子育てするために毎年サシバが飛来します。インドネシア付近から渡って来ますが、私は、今年初めて確認しました。


2013年4月17日水曜日

水戸藩にいた鳥


 
(1)     幕末の水戸の絵師に描かれた鳥

 

  好文亭四季模様之図  亘セン幽

本図は、亘セン幽の筆になる偕楽園の鳥瞰図で、嘉永4(1851)年に彩色が加えられている。当時の偕楽園が細かく描かれているが、特にツルの仲間が図鑑のように描かれているのが目に付く。絵から見てタンチョウが、子に餌を与えている。タンチョウの近くには、ソデグロツルが描かれている。
 
  また、タンチョウの脇に、

「 靏  靏之休ミ所
 
  藤棚  見川村地

  嘉永四辛亥四月初子ヲウム 」の書き入れ付がある。

 

  偕楽園図

本図は、「幕末と明治の博物官報」(平成11年度)によれば、徳川斉昭が偕楽園の図の作成を園吏に命じ、完成されたものである。完成された絵は、斉昭に奉呈され、斉昭の「潜龍閣蔵書印」という蔵書印が押されている。絵の内容は、「好文亭四季模様之図」とほぼ同様である。

面白い事に、この二枚の絵を見比べてみると構図などは似ているが、描かれている鳥が違うのである。「偕楽園図」には、「好文亭四季模様之図」  に描かれているソデグロヅルは見当たらない。しかし、タンチョウの他にツルの仲間で、ナベヅルが偕楽園と桜山の間に描かれている。加えて、コサギと思われる鳥の群が田の中に描かれて、千波湖の湖面には白鳥類あるいはハクガンと推定されるもの、淡水ガモの仲間と思われる群れも浮いているように描かれている。 

現在は道路や芝生の広場となっている所に湿地帯があり、ここで絶滅が危惧されているタンチョウなどの水鳥たちがのんびりと餌をとる様子が興味深い。当時、ツルの仲間は、徳川家によって厳重に保護されていたのであるが、これらの絵においても、ツルは現在の図鑑で見ても種が特定できるほど詳しく描かれている。他の水鳥は種が特定できるほど詳しくなくカモの仲間程度しか特定できないことを見ても、ツルが特別大事にされていた事がわかる。水戸藩内の人々がツルを見る眼は、他の鳥と違っていたのであろう。

縄文時代の水戸市付近の鳥


縄文時代の水戸市付近の鳥

 

現在の水戸市からみて那珂川の対岸にあたる、ひたちなか市三反田には、茨城県を代表する縄文時代の貝塚がある。この蜆塚貝塚の「動物遺存体調査報告書」(1987.3)によれば、検出された鳥類は、保存状態もあまりよくなく種名の鑑定が不可能な破片が多いが、目立って多く確認されたのはカモ類である。その他、ウミウ、ハクチョウ、タンチョウなどの骨が、わずかに見られる。これとは対照的に、保存状態が良好で、頭蓋骨などの一部を除いてほぼ全身骨格が残っている、オジロワシと考えられる大型ワシ類の頭蓋骨・指骨を欠く全身骨格が出土している。食料に資するために解体されたのではないことが明らかで、埋葬犬に見られるような意図的な様子が伺われる、特殊な埋葬例である。

また、この貝塚からは、約3500年前の縄文後期のものと見られる鳥型土製品および鳥形把手も出土されている。三反田蜆塚貝塚の「1999年道路拡幅工事に伴う発掘調査概要」(2000.3)によれば、この鳥型土製品と見られるものは、鳥をモチーフにしていて、嘴は鋭く、猛禽類であると推定される。目は、円孔を貫通させて表現している。

今でも、涸沼にオジロワシが出現することを考えれば、当時、那珂川上空をオジロワシが悠々と舞っていたであろうと推定されるし、これを見た当時の人々が、このワシに特別な畏敬の念を抱いていたと考えるのは不思議ではない。